love passion
へぇ、こいつ。 ひょっとして童貞かもな。 そう思ったのは会って間もない頃。 まだコックが船に乗り込んでまだ間もないころ、飲み明かした夜、ウソップに女の話をしてたコックはいやにえらそうに講釈をたれてやがった。 あいつの自慢話はまるで茶番だった。 大げさに言ってるがガキ相手だからなぁと黙って聞いていた。 大体女なんてのは向こうから寄ってくるもんだ。 わざわざてめぇから声かけて引っ掛ける必要もねぇ。 酒場で飲んでりゃ女から声を掛けてくる。 その中から気に入るのを抱けばいい。 「アホか」 思わず口に出してしまった。 途端に固まるコックに目をやると顔を真っ赤にして俺を睨んでいた。 「てめぇ俺をバカにしてんのか?」 搾り出される低い声。 ふるふる震える握られた拳。 「俺様のやり方にケチつけんだ。そりゃぁてめぇは立派にレディを口説くんだろうなぁ、剣士さんよ?」 「口説く必要もねぇ」 「はっ!てめぇレディに断れるのが怖いんだろ!それともなにか?てめぇ勃たねぇのか?」 ニヤニヤするコックに俺は小さく溜息を吐く。 「女のほうから寄ってくっからなぁ、口説く必要ねぇんだよ」 そういってやるとコックは目を丸くしやがった。 おもしれぇ顔しやがる。 「おま・・・負け惜しみ言ってんじゃねぇ!」 「負け惜しみ言ってどうすんだこんなことでくだらねぇ」 そう吐き捨てればコックはその蹴りを放ってくる。当然俺は応戦して酒の席はめちゃめちゃだ。 俺たちにかまわずつまみを口にほおばりながらルフィがのんびりと口を開いた。 「サンジぃ〜〜〜。ホントだぞ〜。この前の島でもなぁ、こんな胸のでかい女と歩いてた。うらやましかったぞ」 「へっ、どうせ迷子ちゃんが優しいレディに道案内してもらってたのがオチなんだろ?なぁ?」 にやんと底意地の悪い笑みを浮かべるサンジに俺はフンと鼻で笑う。 「そう思うか?」 「そうに決まってんだろ、ナァ、ウソップもそう思うよな!」 「ノーコメントでお願いします。いや、サンジ、それより飲め!!」 ウソップは会話をそらそうとサンジのグラスに酒を注ぎウソ話を始めた。 サンジは既に少し酔っているのだろう、すぐにウソップの話にのってその話はそこで終わってしまった。 俺は自分でもおかしな考えをしてるとは思った。 酔いつぶれてしまったルフィたちを男部屋に投げ込んで、コックもそのまま男部屋に放り込もうと抱えあげた。 眠りこけているコックの体は見事に重力に従っている。 カクンとのけぞる喉。 暑かったのか肌蹴られたシャツ。 そこから覗く白い肌は滑らかそうだった。 やべぇ。 勃っちまった。 前の島を出港してからだいぶ経つ。 溜まっているといえば溜まっている。 いやいやいやいや、 相手は寝てるんだ。 そりゃさすがにまずい。 仲間だしな。 だが、覚えた欲求はゾロの意思とは裏腹に大きくなってしまった。 はっきり言って、 俺は相手が男だろうと女だろうと気にしねぇ。 これまでもなんどか長い航海で溜まることもあってその時も、白状すると、まぁコックならいいんじゃねぇかと考えたことは何度かある。 でも、この男が男を相手にするわけねぇし、考えるだけで終わっていた。 俺は確信している。 こいつは絶対、童貞だ。 女に夢見すぎている。 女を知っててアレだったらこいつは根っからのアホだ。 コックは女をしらねぇ。 だったら、イけるかもしれねぇ。 「おい、コック起きろ」 ぱちぱちとコックの頬を軽く叩いて起こす。 「んあ?」 間抜けな声を出してコックが薄く目を開いた。 まだ眠いのだろう、目を瞬かせて焦点の合わない目で俺を見る。 格納庫の中は薄暗いが至近距離なら顔も見えて問題はない。 「ヤるぞ」 「あ?」 「いいな?」 「あ?ああ」 よし。 返事したな。 さすがに寝たままの奴に突っ込むわけにはいかねぇだろう。 まだ意識のはっきりしないコックをいいことにそのまま口付けた。 訳わかってないコックはそのまま俺のキスを受け、俺の手に堕ちた―――。 堕ちたのは俺だったなんて笑いが出る。 コックはやっぱり童貞だった。 ちょっと触れるだけで甘い声を出して全身震えやがった。 最初から最後までふにゃふにゃで、こんなに感度が良くて女が抱けるのかといらぬ心配までしたほどだ。 さすがに初物はきつかったが、できるだけほぐして、やわらかくして、気持ちよくなるまで弄くってから突っ込んだから、傷もつかなかった。 じっくりやりゃあバージンだって傷つかねぇ。 バージンってのもあったが、コックの中はきつくて熱くて蕩けそうだった。 生理的な涙を零しながらも必死で俺にしがみついてその感覚から逃れようとするコックに可愛いと思ったのがきっかけか。 「ゾロ・・・ゾロぉ」 と舌っ足らずに名を呼んでくるのも可愛かった。 可愛いなんて単語、自分が使うなんて思いもしなかった。 何人も女を抱いてきたし、ゴーイングメリー号に乗り込む前は一人の女とすごした事だってある。 だが、可愛いなんて思ったことは一度だってない。 ましてや、男なんて、可愛い以前に、突っ込めればそれでよかったから顔なんてどうでもよかった。 いや、顔が可愛いんじゃねぇ。 どう贔屓目に見てもこいつの顔は可愛いという形容詞はあわねぇ。 目つき悪いし、極悪だし。 女には瞳をハートにしやがるし。 眉毛巻いてるし。 どっちかというと面白い顔か? 何が可愛いかっつうと、 なんだろ、全部だ。 全て可愛い。 こりゃもう、惚れてるせいだろう。 そう、俺は、コックに惚れちまった。 コック風に言やぁ、メロメロだ。 参ってる。 参ってんだよ、俺は。 どうすりゃいい? コックとはあれから、SEXフレンドになっちまった。 さすが童貞。 快楽にはすぐにはまりやがった。 いや、俺としては大歓迎だ。 惚れてる奴と毎晩のようにできるんだからな。 何が参ってるかっつうと、 当然だが、コックは俺に惚れてねぇ。 一方通行、片思い中だ。 笑っちまう。 今だってさっきまで俺の下でコックは甘い声出して喘いでた。 ほんの2,3分前だ。 事を終えるとコックはすぐにシャワーを浴びに行ってそのまま帰ってこねぇ。 最初はそうじゃなかったと思う。 まぁ慣れてなかったから腰が立たなかったってだけだろうが。 俺の下で喘いでいるときは、そりゃもう可愛い顔して可愛い声を聞かせてくれるのに、終わった途端、その余韻に浸る間もなく、コックは素に戻る。 「じゃ」 なんて色気もクソもねぇ挨拶して出て行く。 後に残される俺は虚しいってもんだろ。 そういや、昔、SEX終わった後、よく溜息を吐かれてたのを思い出す。 終われば用のなかった女たちに優しくする必要もなかった。 早々にシャワー浴びてさっさと寝てたなぁと思い出す。 そうか、あいつらはこんな気持ちだったのか。 次から気をつけよう。 気をつけるも何ももう他の奴を抱く気もしねぇけど。 どうすっか。 自慢じゃねぇが女も男もたくさん抱いてきた。 でも惚れたのは・・・・・・・初めてだ。 「おい、ちょっと付き合ってくれ」 「ああ?」 煙草の紫煙を燻らしながら不機嫌そうにサンジは俺のほうを振り仰いだ。 「刀、研ぎに行きてぇ。自分で行ってもいいが、明日の朝までに戻ってこれるか自信はねぇ」 サンジはちっと舌打ちすると短くなっていた煙草を捨て踏みにじる。 「仕方ねぇな。変わりに荷物もちしろよ」 「おう」 俺は返事するとスタンっと船から飛び下りた。 そのときにはもうサンジは歩き出していて俺はゆっくりと後をついて行った。 その島のログは1日で明日の9時には溜まる。 次の島まであまり距離がないのと、ハリケーンが近づいているということでログが溜まると同時に出港することになった。 本来なら研ぎに出す時間はないが、前の島では上陸後すぐにルフィが問題を起こし、刀を研ぎに出す暇などなかった。 少しでも職人に手入れしてもらうと格段と違う。ログが溜まるまで後22時間。 それだけあれば一本くらいは手入れしてもらえるだろうと考えた。 本音は、サンジと一緒に行動するもっともな理由が欲しかったといえばそれまでだが。 「だからな?こう、華がねぇとさみしいだろ?」 身振り手振りで女性の形を表現するへらへらした野郎は既に酔っ払いだ。 通りかかる女に声をかけるサンジの並べ立てる賛美にまんざらもなく誘いに乗ろうとする女は、ことごとく睨みつけて追い払ってやった。 それに気づかないサンジは「な〜ん〜で〜今日はレディが相手してくれねぇ〜〜〜〜」と絡んでくる。 「わかった、おまえがいるからだ」 「・・・・・・」 「マリモだもんなぁ〜わはははは」 「・・・・・・」 「うるせぇ、素敵眉毛」 「かちーん!!また俺様のチャームポイントを愚弄しやがったな?」 「してねぇ、もういい、酔っ払いは帰るぞ」 「酔ってねぇ〜〜〜〜〜〜!」 「酔ってる奴はそういうんだアホ」 テーブルに突っ伏したまま「バーカ、アーホ」とずっと繰り返すサンジを立ち上がらせるとテーブルに金を置いて酒場を出た。 こんなに酔わせるつもりはなかった。 ちょっと酒を飲みながら、告白というのをしてみようかと思ったのが間違いだった。 昼間、やけに楽しかったのがいけない。 まず刀を預けに行ってから、サンジの後について市場をうろうろした。 サンジと体を繋げるようになってからこうやって二人で歩くのなんて初めてじゃないだろうか。 そう思うと、ただサンジの後に引っ付いて、荷物もちにされようと店主相手にくるくる表情を変えるサンジにちょっといらだちながらも楽しい時間をすごせた。 両手いっぱいの荷物をいったん船に降ろして食事もできる酒場に入ったのが夕刻。 それからも楽しく会話していた。 一方的にサンジがしゃべるのに相槌を打つくらいだったが、それでも楽しいのだから仕方ない。 はっきり言って俺はうるさいのが嫌いだ。酒は黙って飲むもんだと思っている。だがこいつの話ならいくらでも聞ける。これがサンジ以外だったらとっくにテーブルから追い出してる。 こんな自分がおかしくて仕方ない。 横で笑うサンジが可愛い思うと同時に嬉しくて仕方ないのだから仕方ない。 できればサンジも同じ気持ちを持てばいいと、望んでしまうのは欲張りだろうか? そんなふわふわとした時間をがいつまでも続けばいいと、気持ちを伝えようとしたときにはサンジは酔いすぎていた。 「ん〜〜〜〜、ナンシーちゃ〜〜〜ん」 なんて女の名を呼びながらベッドに沈み込むサンジの深く溜息が出る。 「おい、クソコック」 呼びかけてもむにゃむにゃと口が動くだけで既に夢の中だ。 「なぁ、なんで俺に抱かれる?」 耳に届かないだろうと答えを聞く気もなく、ただ、そう、常々、思っていたことが口に出た。 ぱちりと瞼が開いて、青い瞳がうろうろと彷徨いゾロの瞳を捕らえた。 「あ?きもち、い〜から?」 へらっと笑うとサンジはそのまますうと寝入ってしまった。 わかっていたとはいえそれを本人の口から聞かされるとこんなにも打撃を受けるのかと驚いた。 それでも、どちらかというとつらそうにして見せることが多いSEXに気持ちいいと思ってくれてるならいいや、と思ってしまう自分もいて失笑するしかない。 小さく溜息を吐いて柔らかな髪にそっと口付けると部屋を出た。 next |